住宅ローンを契約し、念願のマイホームを手に入れた矢先の転勤辞令。サラリーマンならこんな可能性もゼロではありません。むしろ簡単に退職や転職ができなくなったタイミングだからこそ転勤を命じられやすくなるという説もあるほどです。
住宅ローンを返している最中の転勤は簡単なことではありません。多くの人は初めてのことで分からない点もたくさんあるはずです。
そこで、当記事では以下のような疑問に分かりやすく答えていきます。

  • 転勤するとこれまで受けていた住宅ローン控除はどうなるの?
  • 自宅を賃貸にするか売却するか、迷ったらどう決める?
  • 単身赴任のメリットとデメリットは?
  • 海外に転勤する場合は?

その他にも覚えておきたい住宅ローンと転勤の豆知識などをまとめています。不測の事態で慌てないためにもぜひ参考にしてください。

住宅ローン返済中に転勤が決まったらどうなるの?

住宅ローンを返済している途中で転勤しなくてはいけなくなったら、どうすればいいのでしょうか。選択肢としては次の4つが考えられます。

  1. 単身赴任する
  2. 家を賃貸に出す
  3. 家を売却する
  4. 空き家のまま維持する

まず最初に「自分だけが転勤するのか」「家族も伴うのか」を決める必要があります。次に家族ごと引っ越す場合は持ち家を賃貸にするのか、売るのか、それともそのまま維持するのかといった選択肢から選ぶことになります。ここで最も重要なのは、どの選択肢が自分にとって最も合理的かを見極めることです。
次章以降では、それぞれの選択肢のメリットとデメリット、必要な手続きなど詳しく解説していきます。

単身赴任する場合のメリットとデメリット

ここでは、住宅ローンの返済中に転勤が決まった際、家族を残して単身赴任する場合のメリット、デメリット、住宅ローン控除がどうなるのかなどについて解説します。

住宅ローン控除とは?

住宅ローンを契約して住宅を購入した人が受けられる減税措置です。住宅ローン減税とも呼ばれています。
住宅ローン控除が適用されると申請から10年間、所得税から住宅ローン残高の1%にあたる金額が差し引かれます。仮に3,000万円の住宅ローンを適用金利0.4%で組んだ場合、1年目には30万円が控除され、10年間ではトータルで250万円強ものお金が戻ってくるという非常にお得な減税措置です。
控除の対象になるためには「年収が3,000万円以下」「住宅ローンの返済期間が10年以上」「年間の控除額が40万円以下」などいくつかの条件を満たす必要があります。中でも転勤の可能性がある人にとっては「購入した住宅に自らが居住すること」という条件が大きなネックになります。

単身赴任のメリットは?

残された家族が生活環境を変えずに済み、住宅ローン控除も引き続き受けられます。

父親の転勤に従うとなると、転校や転園することを子どもが嫌がったり、共働き夫婦の妻が仕事を辞めなくてはいけなくなったりと家族に大きな負担がかかります。しかし父親1人が転勤する単身赴任ならこうした負担を家族に負わせる必要がなくなります。
さらにもう1つ大きなメリットとして、単身赴任なら住宅ローン控除が転勤前と変わらず受けられるという点もあります。

単身赴任のデメリットは?

経済的な負担が大きくなる可能性があります

これまで返済していた毎月の住宅ローンに加えて単身赴任先の家賃も支払わなくてはいけなくなるため、家賃負担が2重になってしまいます。
ただし、会社の規定によっては転勤手当として家賃の一部が補助されることがあります。まずは会社から家賃補助が支給されるかどうかを確認するようにしましょう。

住宅ローン控除はどうなる?

それまでと同じく受け続けることができます

住宅ローン控除は「住宅ローンの契約者本人が自宅に居住していること」という条件を満たさなければ受けることができません。しかし転勤などやむを得ない理由で契約者本人が引っ越す場合、自宅に「配偶者、扶養親族、そのほか兄弟など生計を一にする親族」が住み続けているなら引き続き控除を受けられるという特例があります。

必要な手続きは?

特別な手続きは必要ありません

単身赴任の場合、これまでと同様に住宅ローンの支払いを続けていくことになるので金融機関に対しては特別な手続きをする必要はありません。
ただし、住宅ローン控除を受けるためには自宅に残る家族の住民票を税務署に提出し、居住している事実を証明する必要があります。会社員であれば年末調整で会社がこの手続きを代行してくれるため、会社側の指示に従って必要書類を用意しましょう。

次章では、転勤後に家を賃貸に出す場合について解説します。

家を賃貸に出す場合のメリットとデメリット

住宅ローンの返済中に転勤が決まった場合、単身赴任ではなく家族そろって赴任先に向かうという選択肢もあります。その際、無人になった自宅を賃貸物件として第三者に貸し出すことが可能です。

賃貸のメリットは?

家賃収入が得られる上、自宅を不動産資産として保有することができます

家族そろって新しい土地で暮らすためには何かと費用がかかります。そんな時に自宅を誰かに貸してその賃料を受け取れるというメリットは家計の面からも魅力的です。また、売却と違って自宅を完全に手放すことがなく、資産として持ち続けることができる点もメリットです。

賃貸のデメリットは?

諸経費などで黒字にならない場合も

自宅を賃貸に出せば家賃収入が入る一方、家主として負担しなくてはいけない経費も発生します。例えば固定資産税や修繕費、不動産会社に支払う管理費、手数料などです。
また、そもそも借り手が付かなければ収入はゼロです。様々な諸経費を差し引き、空き家や空室になってしまうリスクを考慮した上で、それでも利益が出るのかどうかを長期的な視点で検討する必要があります。

住宅ローン控除はどうなる?

適用外になります

住宅ローン控除は自宅に契約者本人かその家族が住んでいることが前提になるため、家を賃貸に出した場合は控除を受けることができなくなります。
ただし、転勤期間が終わり、再び自宅に戻ってきた時に住宅ローン控除の残存期間が残っていれば控除が受けられるようになります。

必要な手続きは?

税務署に転居届を提出します

住宅ローン控除の対象から外れるため、引っ越しをする日までに「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」という書類を作成して所轄の税務署に提出する必要があります。

次章では、転勤を機にマイホームを売却するケースについて解説します。

家を売却する場合のメリットとデメリット

家族そろって転勤をすることを決めた場合、住宅ローン返済中の自宅を思い切って売却してしまうという選択肢もあります。特に転勤が長引きそうな時や賃貸に出しても借り手が付きそうにない場合などに有効な手段です。

売却のメリットは?

住宅ローンの支払いや諸経費の負担がなくなります

単身赴任は2重に住居費がかかる点が、賃貸に出す場合は様々な経費がかかる点がデメリットです。その点、自宅を売却してしまえばこうした金銭面での負担から解放され、転居先で新しい家を購入するための余裕が生まれます。転勤先から戻る予定がない場合、新天地で新たに住宅を購入するという選択も可能になります。

売却のデメリットは?

物件によっては売却できないことがあります

売却は住宅ローンを精算して心機一転をはかることができる手段ですが、家の売却価格が住宅ローンの残額を下回ると「債務超過」と呼ばれて契約そのものが成立しません。この場合は足りないお金を現金で用意して一括返済する必要があります。
特に物件の状態や立地が良くない場合や、契約時の頭金が少なく住宅購入のための費用をほとんどローンでまかなっていた場合はこの点が大きなネックになります。
売却を検討する場合は複数の不動産会社に査定を依頼し、いくら程度で売れるのか目安を把握する必要があります。

住宅ローン控除はどうなる?

適用外になります

賃貸の場合と同様、契約者本人が居住していないため住宅ローン控除を受けることができなくなります。

必要な手続きは?

任意売却の手続きが必要です

自宅を売却する際には住宅ローンの残額を一括返済し、抵当権を抹消する「任意売却」の手続きをする必要があります。手続きは金融機関に必要書類を提出すれば完了しますが、手数料が別途発生します。

次章では自宅を空き家のまま維持するケースについて解説します。

空き家のまま維持する場合のメリットとデメリット

転勤が短期間で終わる場合、持ち家を売却したり人に貸したりせず、空き家のままにしておくという選択肢もあります。

空き家のまま維持するメリットは?

賃貸トラブルがなく、いつでも戻ることができます

自宅を賃貸にする場合、居住者に室内を汚されたり家賃やクリーニングなどを巡ってトラブルが起こったりする可能性もゼロではありません。また契約期間内は我が家に戻ることができません。
しかし空き家のままにしておけばこうした賃貸にまつわるリスクもなく、自宅にいつでも自由に戻ることができます。

空き家のまま維持するデメリットは?

家を管理するためのコストがかかります

空き家は荒れやすく、防犯上の問題も無視できません。家を空けている間は定期的に清掃や見回りを行ってくれる業者に依頼するのがベストですが、その分だけ金銭的なコストが増えてしまいます。また、持ち家には固定資産税がかかります。そうした経費を払い、住宅ローンを返済しながら転勤先の住居費も支払うという3重の負担を背負うことになります。
そのため空き家のままにしておく期間は最長でも1年以内の短期間に留め、それ以上になる場合は賃貸や売却を検討するのがおすすめです。

住宅ローン控除はどうなる?

適用外になります

ただし、住宅ローン控除の残存期間内に自宅に戻った場合は控除を再開することができます。

空家のままにする場合に必要な手続きは?

税務署に転居届を提出します

所轄の税務署に転居する旨の証明書を提出する必要があります。

次章では、これまで紹介してきた選択肢の中で最もコストパフォーマンスに優れた方法はどれか解説していきます。

金銭的にベストな方法は賃貸?売却?

住宅ローン返済中に転勤が決まった場合、どのような対応を取るのが金銭的にはもっとも得なのでしょうか。

持ち家がマンションなら賃貸、戸建てなら売却がベスト

選択肢の1つである単身赴任は、毎月の住宅ローン返済と赴任先での家賃という2重の負担がコスト面でのネックになります。その点では、家族そろって転勤し、空いた家を賃貸に出すか売却するかした方が金銭面では合理的です。
ただし、賃貸に出す場合は自宅に借り手が付くかどうかを考えることが重要になります。 
一般的に戸建てよりマンションの方が需要が高く、借り手が集まりやすいので賃貸に向いています。反対に戸建ては借り手が見つかりにくいため賃貸には向きませんが、新築物件なら好条件で売れる可能性があるため売却を検討するのがおすすめです。

賃貸で失敗しないためのコツ

空き家になった自宅を賃貸に出す場合は、必ず「定期借家契約」で貸さなくてはいけません。
住宅の賃貸契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。普通借家契約は、契約期間が終わっても借り手が希望すれば契約が延長され、引き続き住み続けることができます。一方の定期借家契約は借り手が希望しても契約は延長されず、あらかじめ定められた期間しか入居できない決まりになっています。
通常の賃貸物件のほとんどは普通借家契約で貸し出されていますが、転勤にともなって自宅を貸す場合は定期借家契約を結んでおかないと、自分が転勤から戻って来た時に借り手に退去してもらえなくなる恐れがあります。無用なトラブルを招かないためにも契約の形態はしっかり確認しましょう。
ただし、定期借家契約は数年単位の短い期間でしか貸し出せないため、借り手にとっては不便です。この点をカバーするため家賃は普通借家契約よりも安く設定する必要があります。

売却で失敗しないためのコツ

戸建ての自宅を売却する際は、事前に複数の不動産会社に査定を依頼して売却価格の相場を把握しておくことが大切です。
また、売却のタイミングは早ければ早いほどお得です。どんな住宅でも築年数が経てば不動産としての価値は下落します。よほど立地が良く人気のエリアに建つ新築物件なら将来的に値上がりする可能性もありますが、多くの場合、売却を検討するなら早めに決断した方が高く売れると考えた方がいいでしょう。

どちらの場合も借り換えが必要になるケースも

賃貸と売却のどちらを選んだ場合でも、住宅ローンを借り入れている金融機関から「借り換え」を求められることがあります。
そもそも住宅ローンは契約者本人とその家族が住むことを条件に、一般のローンよりも安い金利でお金を借りられるしくみになっています。そのため自宅を他人に貸したり売却したりする場合、当初の優遇金利を受けられなくなり、一般の金利が割高な住宅ローンに借り換えをしなくてはいけなくなることがあるのです。
賃貸や売却を検討する際は、金融機関の担当者にその旨を相談し、住宅ローンの借り換えが必要かどうかを確かめておきましょう。

次章では、金銭的なコストが多少かさんでも家族に負担をかけたくないという人におすすめの単身赴任について、知っておきたい豆知識を解説します。

現状維持を優先するなら単身赴任もあり

金銭面を重視するなら賃貸か売却がベストですが、心情的にそう簡単に割り切れないこともあります。
例えば苦労して手に入れたマイホームを手放したくない、他人に貸して汚されるのが嫌だ、住み慣れた土地を離れたくないなどの理由で家族が自宅に残ることを希望した場合は単身赴任せざるを得ません。ただし、その際は住宅ローン控除を確実に受けられるように注意しましょう。
住宅ローン控除関係で特に疑問が多いのは以下の2点です。

住民票はどうすればいい?

住宅ローン控除に限って言えば、住民票を移さなくても問題なく控除を受けることができます。また、赴任先に住民票を移しても住宅ローン控除の金額や適用期間に変化はありません。

2世帯住宅で親世帯を残して単身赴任する場合は?

子世帯が親を扶養している場合に限り、単身赴任しても引き続き住宅ローン控除を受けることができます。反対に、扶養に入っていない親世帯を自宅に住まわせて単身赴任や転勤をしても、住宅ローン控除の適用外になることがあるため注意しましょう。

次章では、転勤にあたって自宅の扱いに迷った時に読んで欲しいチェックポイントを解説します。

転勤後の自宅の扱いに迷ったら?

住宅ローンを返している最中に転勤が決まった場合、「単身赴任」「賃貸」「売却」「空き家のまま維持」という4つの選択肢の中から自宅の扱い方を選ぶことになります。
以下に、自分に最も適している方法を選ぶためのチェックポイントをまとめました。

ベストな選択をするためのチェックポイント

  • 自宅がマンションなら……賃貸
  • 自宅が戸建てなら……売却
  • 子供を転校(転園)させたくないなら……単身赴任
  • 夫婦共働きを続けたいなら……単身赴任
  • 1年以内に自宅に戻るなら……空き家のまま維持
  • 3年以内に自宅に戻るなら……賃貸
  • いつ戻れるか分からないなら……売却

チェックしたいポイントは「自宅に借り手がつきやすいか」「家族の生活環境を変えても差し支えないか」「転勤期間がどの程度になるか」という点です。

転勤するにあたって住宅ローンが残っている自宅をどうするかについては、万人に共通する正解はありません。上記のチェックポイントを考慮し、金融機関や不動産会社の担当者とも相談しながら自分たちにとってベストな選択を見つける必要があります。その際にはファイナンシャルプランナーに意見をもらうのもオススメです。

次章では、海外に転勤することになった場合に知っておきたい注意点について解説します。

海外に単身赴任する場合、住宅ローン控除はどうなる?

住宅ローンの支払い中に単身赴任する場合、自宅に家族が住み続けていれば特別な手続きなしで住宅ローン控除を継続することができます。ただし、これは赴任先が日本国内であることを想定しています。では海外への単身赴任する場合、住宅ローン控除はどうなるのでしょうか。

海外へ単身赴任する場合も控除は受けられる!

以前は住宅ローン契約者本人が海外に赴任すると、自宅に家族が残っていても住宅ローン控除の適用外になっていました。
しかし平成28年に法律が改正され、一定の条件を満たせば海外に赴任する場合も国内と同様に住宅ローン控除を受けられるようになりました。
控除を受けるために必要な条件は「住宅の引渡日から6か月以内に家族が入居すること」「その後も引き続き居住すること」「住宅ローン契約者本人も帰国後には入居すること」の3点です。

海外勤務中にマイホームを購入しても控除の対象に

住宅ローンを組んで家を買った後に海外赴任するケースだけでなく、海外勤務中に日本国内の住宅を買った場合も住宅ローン控除を受けることができます。
そのため、例えば帰国後に家族そろって済む家を海外赴任中にあらかじめ買っておくということも可能になります。

家族全員で海外に引っ越す場合は対象外

単身赴任なら勤務先が海外でも住宅ローン控除を受けることができますが、家族そろって海外へ転勤し、自宅を賃貸に出したり売却したりした場合は国内と同様に控除の対象外になります。
ただし、こちらも国内の場合と同じく、住宅ローン減税の対象期間が残っている間に帰国して自宅に戻った場合は再度住宅ローン控除を受けることができます。

次章では、住宅ローン契約中に転勤が決まった時に覚えておきたい大事なポイントを簡単にまとめます。

まとめ

住宅ローン返済中に転勤が決まったらどうしたらいいのでしょうか。ここでは重要なポイントをまとめました。

  • 選択肢は「単身赴任」「賃貸」「売却」「空き家のまま維持」の4つ
  • 単身赴任は家賃負担が2重になるが、家族の生活環境を変えずに済む点がメリット
  • 賃貸は経費がかさむ反面、借り手が付けば家賃収入を得られる
  • 売却は思い通りに売れないこともあるが、売却できれば住宅ローンを清算できる
  • 空き家のまま維持するのはリスクが高く、1年程度が限度

どの選択肢が最善かはケースバイケースです。まずは家族と今後の生活についてよく相談し、金融機関の担当者にも連絡した上で慎重に判断しましょう。